不動の心

チヒロ

            2021年元朝の千倉瀬戸浜海岸(井上指導員撮影)

明けましておめでとうございます。

指導員のチヒロです。今年もよろしくお願いします。
なの花会では、精神・知的・身体に障がいのある当事者の方の就労支援や、安定した日常生活に復帰するためのお手伝いなどをしています。
年齢層も20代から60代と幅広く、私達指導員も当事者の方に寄り添い、一人ひとりの個性溢れた感性を伸ばし、笑顔でいられる環境作りを心掛けています。
作業所では、外部からの委託、オリジナル小物制作、リサイクルなど様々な種類の仕事がありますが、私は主に革を素材にしたアクセサリー商品を作っています。
今日は、年頭に当たって仕事とは別のお話をしてみたいと思います。
私は中学から短大までの8年間剣道を続けていました。その後、就職、結婚を機に中断。長女が剣道を始めたことをきっかけに、私自身も24年ぶりに剣道を再開しました。剣道は長い歴史と伝統を持ち、基礎的運動能力を主とした運動です。良い姿勢を必要とし、更に情緒の安定と自主独立の心を養い、身体的、精神的な修練を重ねることが求められています。
一般に武道では、「不動心」の精神ということが大切にされています。私が最近読んだ本で精神科医の大野裕(おおのゆたか)先生の「『心の力』の鍛え方」(岩崎学術出版)の中にこんなことが書かれていました。(大野先生は認知療法の日本における第一人者ですが、空手を通した武道にも造詣(ぞうけい)の深い方です)

厳冬の春一番に咲く梅一輪

「新年を迎えたときなどに、心機一転、頑張ろうと考える人は多いと思います。そのように新しく変わっていきたいという気持ちは大事ですが、自分らしく生きていくためには、いつも変わらない自分の基本軸を忘れないようにすることも大切です」と。
毎日の生活の中で良い出来事であれ、辛い出来事であれ私達は心が揺れる場面に出会います。そして思いがけない事が次々と起こります。そのような中で、自分を忘れないで冷静に物事に立ち向かい生き抜いていくためには、不動の心「何事にも動じない精神」が何よりも増して大事だということです。
もう一つ、以前目にした新聞のコラムで、日ごろ剣道の修練をしている中で考えさせられたエピソードがあります。題は「カエルの知略」。
「俗に『ヘビににらまれたカエル』と言う。恐怖で身がすくみ動けなくなることを指す。絶体絶命の哀れなカエルが浮かぶ。だが最新の研究によれば、実はあの不動の姿勢こそ最善の防御策だという▼動物学者の西海望(にしうみのぞみ)博士(33)は、シマヘビとトノサマガエルの駆け引きを屋内外で撮影した。解析してわかったのは、カエルが先手をとって跳躍すると、空中では進路を変えられないため、ヘビに動きを読まれるおそれが高くなること。ヘビがしびれを切らして攻撃に出るのを忍耐強く待っていたらしい(中略)…昭和の大横綱双葉山(ふたばやま)の立ち合いである。後手をとるかに見せて優位に立つ『後(ご)の先(せん)』を理想とした。だれに教わったわけでもないのに、カエルたちが双葉山顔負けの知略を備えていたとは驚きである…(趣意)」(朝日新聞・天声人語 2020年7月4日掲載)
実はこの実験の再現映像が別の記事で紹介されています。研究者の西海博士がカナダの科学誌に発表したものです。https://www.youtube.com/watch?v=MBlKQ2-31P4

ヘビとカエルがにらみ合った時の様子を再現した実験(朝日新聞DIGITAL)

「カエルの知略」では、剣道で言うなら先手を取り攻撃した方が有利とは限らず、お互いにじっくり攻め合う中で相手の心を読む様子が書かれています。カエルの不動の姿勢は最大の防御になっています。そして誰が教えたわけでもなく「後の先」を取り有利にたったカエルは賢い生き物だと思います。この話の中で「不動の姿勢」と「後の先」について剣道と通じるものがあるので、私の知る範囲でお話したいと思います。
剣道で言う「後の先」とは、相手が攻撃してきた動作に反射して、相手をかわし攻撃の機会を捉(とら)え、相手の気勢の萎(な)えたところで、無理なく勝ち収める事が出来ます。
ちなみに「先々の先」と言う言葉もありますが、これはお互いに攻め合い相手の心を読み、先に打突(だとつ)の機会を逃さず一拍子で仕掛けた技で勝つ事を言います。
どのような武道にたずさわっていても、危ない時には自然に危険を感じて上手にさばいて身をかわす。逆に好機だと判断した時には、それを見逃さず間髪(かんぱつ)を入れず攻め込んでいく。このような柔軟にとっさの反応をしながら、しかし自分を見失わないのが武道の神髄(しんずい)です。それを可能にするのが「とらわれのない心」だ、と大野先生も言っています。さらに先生は「一人で無理に頑張りすぎず、自分だけではできないという限界を受け入れ、必要な助けを求めることができるのも、大切な心の力だ」とも。

今、世界各国で新型コロナウィルス感染者が急激に増え、未だに感染の勢いは衰えていません。緊急事態宣言が発令されて様々な活動が自粛され、外出が減る中で活動性(身体的または精神的)が落ち、鬱(うつ)の様な症状を発症するケースが増えているようです。また今の世の中グローバル化が進み、忙しい現代社会、ストレス社会に対応していくのは難しく、自分にとって何が必要なのかふと見失ってしまうこともあるかと思います。
そのため気持ちが沈み込んでしまったり、ストレスのあまり体調を崩してしまうこともあるかと思います。しかしどんな暴風にさらされても『柳の風』のように、しなやかに受け流す柔軟で強い心を育んで欲しいと思います。


NPO法人なの花会 職業指導員
所 千尋

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